私の名前はMatthieu Paley、20年にわたってフリーランスの写真家を続けている。多くの著名雑誌やNGOから依頼を受けて仕事をしている。私の作品は世界中で展示されている。
この5年間は富士フイルムの製品を使用している。最初はナショナル・ジオグラフィック誌から依頼された仕事のため、GFX 50Sを使用した。アフガニスタンのワハーン回廊で、記事のための写真を撮影することが目的だった。標高の高い場所を5週間も歩き回った。電気も道路も通っていない。このカメラが悪天候や塵にも耐えられることに感銘を受けた。実に頑丈なカメラだった。つまり、中判のデジタルカメラをあのような荒地に持っていけるとは、この時まで全く想像もしていなかった。私の考えが一変した瞬間だ。
様々なカメラブランドを試した末、富士フイルムに行き着いた。なぜなら、富士フイルムのカメラの手触りが私の好みだったし、何より重要なのは、カラープロファイルのラインナップと雰囲気が素晴らしかったからだ。写真を撮る際に、私に大きな影響を与えるのが色だ。かつてはフィルムで撮影していた。そして私の画像には、「フィルム」のような雰囲気を持たせたいといつも願っている。新しいソフトウェアのテストを富士フイルムから依頼されたとき、新しいカラープロファイルを試せることに特に興奮を覚えた。「落ち着いた発色と豊かなシャドウトーンが、映画風の動画に最適です。」という新しいプロファイル「Eterna」についての説明を読んだとき、すぐに試してみたいと思った。自分の画像を編集するとき、色を柔らかくして影を濃くするのが私の基本だ。影はつぶれないようにすべきであると私は常々考えている。画像の全部が見える状態にする一方、画像の一部を隠すような過度のコントラストは避ける。画像の一部を隠したいなどとは思わない。
撮影した画像の雰囲気を、私はすぐに気に入った。やや青緑がかった色合いが、私の好みに合うと感じられた。新しいソフトウェアをどこで試すか考えていたとき、青の色合いが強い環境がいいと思った。これは「青」をテーマにした撮影作業であると考えた。ポルトガルに、しかもアラービダ自然公園の中に住んでいるのは幸運だ。そこで、馴染みのあるビーチにいくつか見当を付け、青い色調の水辺を探そうと思った。私たち家族は2年前、1台のバンをキャンピングカーに改造した。そして「バン・トリップ」と称してポルトガル中を定期的に旅行している。妻と私は、2人の息子を連れて、アラービダ周辺までバンで出かけることにした。ソフトウェアをテストするため、自前のGFXと数本のレンズを持っていった。その中には、比較的新しいGF45-100mmF4もあった。手ブレ補正機能があり、F値を少なくとも1段下げることができる。これは本当に役に立つ。というのも、私好みの光は日没後、間もないころに訪れるからだ。さらにGF45mmF2.8と、広角のGF23mmF4も持っていった。私は人物を撮る写真家なので、これらの道具があれば、望む写真の90%を撮ることができる。私は小型カメラであるX100Fを、予備用のカメラとして常に持ち歩く。このカメラには何度も助けられた! かつて、パキスタンでは全ての写真をこのカメラで撮影した。写真は後にナショナル・ジオグラフィック誌で発表された。
バンの中から撮影を開始し、アラービダの美しい景色の中を歩きながら撮影を進めた。オートフォーカスのスピードが、特に暗くて低コントラストの状況で改善していると感じた。繰り返しになるが、私が好むのは、このような光だ。だから、このような状況ですばやくフォーカスできることは、私にとっては劇的な改善である。
まず、息子たちと一緒に釣りに行くことにした。そして、美しい赤色の岩石層を通りかかった。紺青色の空を背景とするこの画像は、私の美的感覚に非常に近い。私は今まで、撮影旅行を数多く行ってきた。このような環境で仕事をするのは好きだ。歩きながら写真を撮るのはとてもいい気分だ。私のカメラと2台のレンズは、私のショルダーバッグにちょうど収まる。歩きながら取り出すのも簡単である。また人物の写真を撮るときは、スクリーンをチルトさせることが多い。そうすれば人々は、私の息子たちでさえも、カメラのほうをあまり「見なくなる」。写真家は「控えめに」被写体と向き合うべきだ。これは私の基本姿勢である。撮影される人がリラックスしていれば、心を開くようになり、人柄が自然とにじみ出る。そうすれば、より力強い画像を生み出せるようになる。
灯台のふもとで一晩を過ごし、朝食にパンケーキを食べた。それから、素晴らしいビーチに向かった。徒歩でしかたどり着けない場所だ。私は行ったことはなかったが、妻には馴染みの場所だった。そこで妻は、眺望が素晴らしい場所まで私たちを連れて行ってくれた。崖の上に立つと、まるで鳥の目で見るように、様々な色調の青が美しく広がる。海岸の近くに小さな島々が見える。風景写真を撮るのにうってつけの場所だ。ところどころに見える小さな人影が、スケール感を表現するのに役立った。ようやくビーチにたどり着いた。大西洋の冷たい水の中で泳ぐ時が来た。GFXを手に海に入り、息子たちが泳ぐところを撮影した。
一年のうち数か月間は、撮影の旅に出かける。家族と一緒に時間を過ごし、このカメラで思い出を記録するのは、何ともすてきな機会である。このような機会を、もっと増やしたいものだ!