GF500mmF5.6で撮る鉄道写真
単焦点レンズ1本で作例バリエーションを創り上げる。それも超望遠レンズ1本だけで。
今回のGF500mmF5.6による一連の撮影は、ズームレンズの快適さに思考も身体もドップリと浸っている現在の私にとって、大いなる挑戦であった。
昨今の鉄道写真では、使用レンズが長焦点化している。都市部を中心に線路脇は柵や塀で厳重にガードされるようになった。また社会意識の変化から、線路に近づく行為自体が許容されにくくなった。その結果、線路から離れて望遠レンズで撮影することが多くなったのだ。
また、鉄道写真はシャープさを重視する傾向が強く、古くから大判、中判フィルムでの撮影が盛んに行われてきた。そういった背景から、1億画素の超高画質を35mm判換算約400mmという焦点距離で撮影できるGF500mmF5.6の登場を最も歓迎すべきは、鉄道写真界ではなかろうか。

〔柵外の安全な場所から撮影する際、不要なものを排除し必要なものだけを画面に収める。この作業に望遠レンズは欠かせない〕

〔沈みゆく陽を浴びて機関庫内で休息するディーゼル機関車。そのボンネットに作り出された幅広い光の濃淡をGF500mmF5.6が正確に再現する〕

〔伊豆箱根鉄道には昭和23(1948)年製の凸型電気機関車が在籍する。その古豪の雄姿がシャープに捉えられている〕
大口径の前玉とそれをカバーするロゴ入りの大振りなフードが目を惹くGF500mmF5.6。これを初めて目にしたときにまず感じたのは、「カッコいいレンズだな」ということ。稚拙な感想と笑われるかもしれないが、自分の機材として長く愛用するためには、カッコよさは軽視できない重要な要素だ。
今回の撮影ではGFX100IIに装着して使用した。両者の組み合わせはバランスがよく、ホールドも安定する。そしてレンズの重量がボディーと合わせても2.5kgに満たないので、長時間持っていても疲れを感じない。撮影ポイントまで徒歩でアクセスすることが少なくない鉄道写真撮影において、これは有利なスペックだ。

〔超望遠では列車をファインダーで追いながらの流し撮りはかなり困難だが、GFX100Ⅱ + GF500mmF5.6のホールドの安定感がそれを可能にする〕
近所の路線を皮切りに、私が鉄道車両の中で最も好きな蒸気機関車、そして今回のメインとも言える伊豆箱根鉄道と、一カ月半に亘ってGF500mmF5.6での撮影を進めてきた。私は三脚の使用があまり好きではない。なので、大半のカットは手持ちで撮影したが、手ブレ補正が効いているお陰でフレーミングでの苦労はなかった。

〔鉄道車両は全体ではなく、一部分にも被写体としての魅力が潜む。フレーミングが困難なはずの超望遠での近接撮影を、苦も無く行えた〕

〔蒸気機関車の吐く煙は、その度ごとに量や形、流れる方向が異なる。それに対応するには手持ち撮影が最良だ〕

〔プラットホームを覆う屋根の支柱を撮影した。ただの鉄骨ではなく、古レールが使われているのが興味深い。手ブレ補正機能のお陰で、シャッタースピード1/200秒でも安心して切ることができた〕
そして、特筆すべきは高い解像度であろう。蒸気機関車旧型車両のいぶし銀のような質感の再現も実にシャープだ。またボケも写真の醍醐味の一つだが、美しいボケ味を生み出すGF500mmF5.6の描写にはとても満足している。

〔鉄道模型?いえいえ、実物です。1km近く離れたところから撮っているので、電車はこんなに小さく写っているが、拡大すると車体標記がしっかり読み取れる〕

〔昭和21(1946)年の誕生以来あまたの年数を重ねてきたこの蒸気機関車。他の鉄道車両には無い重厚な質感が、匂いや熱をも伴って伝わってくるようだ〕

〔乗務に際し、乗込む車両の点検を行う運転士。滑らかなボケを伴った電車の車体を背景に、指差しする凛々しい姿が浮かび上がる〕

〔沿線に広がった菜の花の柔らかい前ボケが、春の訪れに浮き立つ心を表しているかのようだ〕
ところで新幹線のように近寄るのが困難な路線を撮影していると、「あともう一寄りできたら」と思うことがよくある。そんな欲求もGF500mmF5.6は解消してくれる。1.4xテレコンに対応しているからだ。高い性能を維持したまま35mm判換算約560mmの焦点距離が得られる。

〔車両の先頭から最後尾まできっちり画面に収めるのが鉄道写真のセオリーだが、ときには反抗して大胆に画面から飛び出させてみたくなる。1.4xテレコンの装着により、カーブを走る電車を的確な位置で捉えることができた〕
不安を抱きながらスタートしたGF500mmF5.6の撮影だったが、使用の回を重ねていく内に35mm判換算約400mmという焦点距離が、自分の思考にも身体にも馴染むようになった。超望遠レンズとは何なのか?どのような使い方をすればその特性が生きるのか?それを改めてじっくりと考えるいい機会となった。

〔GF500mmF5.6が持つ超望遠特有の距離感に最初は翻弄されたが、悩んだ分、その魅力の奥深さが理解できた気がする〕

〔写真は引き算、というのはしばしば言われる論。スポーク部分が松葉のような形になっていることに歴史的価値を見出してシャッターを切ったこの車輪のカットも、超望遠の特性を活かし必要な部分だけを切り取っている〕