感情を映し出す 3つのFSレシピ
写真は、目の前の光景をただ記録するだけのものではありません。
それは「その瞬間がどう感じられたか」を写し取る行為でもあります。
光の角度が少し変わるだけで、質感がわずかに揺らぐだけで、雰囲気や記憶、そして感情そのものを形づくるチャンスが生まれる。
今回の富士フイルムのプロジェクトでは、テクスチャー、リフレクション、そしてモーション。私の世界の見え方を構成するこの3つの“視覚言語”をもとに、それぞれのテーマを表現できる3種類の異なるレシピを作ってみたいと思いました。これらのレシピはすべて FUJIFILM X-E5 を使い、シドニーの街とその周辺での試行錯誤から生まれたものです。
穏やかにうねる海のエネルギー。鏡が生み出す非現実的な世界。そして街の鼓動を感じるダイナミックな動き。 このシリーズは、光と感情が1つのフレームの中でどう共存できるのかを探る旅でもありました。



FS RECIPE: Ocean Textures
このレシピは、海そのものから直接インスピレーションを得ています。波や水面の質感、色合い、そして絶えず変化する“海の気配”。ボンダイビーチで、夜明け・真昼の強い光・夕暮れの金色のトーンなど、時間帯ごとにまったく異なる表情を見せる海を捉えました。

目指したのは、どこか永遠性を感じさせる仕上がり。落ち着きを保つためにコントラストは柔らかく、それでいて海の奥行きや生命力が伝わるよう、色は豊かに。粒状感やテクスチャーはほんの少しだけ加え、写真が持つ“有機的な手触り”を際立たせることで、ムーディーで自然、そしてどこか絵画のような存在感を生み出しています。

この雰囲気を実現するため、私は FUJINON XF200mmF2 R LM OIS WR を使用しました。圧縮効果と精細な描写を兼ね備えたこのレンズは、水・砂・岩に潜む複雑なパターンを深く掘り下げつつ、被写体を親密さと広がりを併せ持つ形で切り取ることができます。

このレシピはやがて、動きの中の静けさ——決して止まることのない場所で、静寂の瞬間を見つけることをテーマにするようになりました。写真の醍醐味は、立ち止まり、光を観察し、ほんの小さなディテールがひとつの情緒を決定づける瞬間に気づくこと。まさにその体験を形にしたレシピです。
FILM SIMULATION:CLASSIC CHROME
MONOCHROMATIC COLOR:N/A
GRAIN EFFECT:STRONG, LARGE
COLOR CHROME EFFECT:WEAK
COLOR CHROME FX BLUE:WEAK
SMOOTH SKIN EFFECT:OFF
WHITE BALANCE:AUTO/ R 3, B-3
DYNAMIC RANGE:DR100
D RANGE PRIORITY:OFF
TONE CURVE:H -2, S +1
COLOR:+4
SHARPNESS:-2
HIGH ISO NR:-4
CLARITY:0
FS RECIPE: Reflections
2つ目のレシピは、「反射」をテーマにしています。それは文字通りの反射であると同時に、感情の反射でもあります。今回は“鏡”を中心的なモチーフとして据え、非日常的で夢のようなシーンを作り出すことを狙いました。

鏡を想定外の場所に置くことで、現実そのものを“組み替える”ことができます。広い空を映したり、被写体の内側に秘めた感情を引き出したり、あるいは鏡の端に被写体を半分だけ隠すことで、「見せる」と「隠す」が同時に成立する不思議な構図を作り出す。ひとつひとつのセットアップは、断片的なのにどこか“完結した世界”として成立する、そんな認知の揺らぎを意図して構築しています。

このルックを実現するにあたり、少し冷たさを帯びた色調 を軸に、コントラストは控えめに、粒状感はごく繊細に抑えました。その結果、わずかに非現実の気配をまとった、シネマティックでハイファッション的な空気感が生まれます。現実と夢の狭間に漂うような、少しムーディーな世界を目指しました。


使用したレンズは FUJINON XF50mmF1.0 R WR。創作系のプロジェクトでは長年愛用している一本です。開放F1.0ならではの柔らかな分離感と夢のような奥行きは、鏡を使った構図との相性が抜群です。 レシピとレンズが組み合わさることで、「現実」と「想像」の境界は曖昧になり、見る人に“立ち止まって解釈したくなる余白”が生まれます。
E
FILM SIMULATION:PRO Neg. Hi
MONOCHROMATIC COLOR:N/A
GRAIN EFFECT:WEAK, SMALL
COLOR CHROME EFFECT:WEAK
COLOR CHROME FX BLUE:STRONG
SMOOTH SKIN EFFECT:WEAK
WHITE BALANCE:AUTO/ R -3, B 3
DYNAMIC RANGE:DR100
D RANGE PRIORITY:OFF
TONE CURVE:H -1.5, S +0.5
COLOR:+1
SHARPNESS:-2
HIGH ISO NR:-4
CLARITY:0
FS RECIPE: Motion Blur
3つ目のレシピは「動き」に焦点を当てています。一瞬で過ぎ去る時間を切り取りながら、静止画というより“表現豊かな絵画”のようなフレームを作り出す。モーションブラーを積極的に取り入れることで、色彩・リズム・空気感が生き生きと流れ出すイメージを目指しました。

撮影はクラシックなストリートフォト的アプローチで、賑やかなシドニーの街中を歩きながら、その近くにある静かな自然エリアも併せて撮影しています。そのたびに、カオスと静寂のあいだを揺れ動く“バランス”を探り、ひとつひとつのフレームが小さな実験になっていきました。仕上がりは どこか懐かしさを帯びた美学。暖かいトーン、鮮やかな色、そして強めのフィルムグレイン。柔らかさと夢のような透明感が同居し、「本当にあった記憶なのか、それとも夢の断片なのか」そんな曖昧さが残る表現になっています。

このレシピでは、FUJINON XF33mmF1.4 R LM WR を使用し、さらに NDフィルターを組み合わせて、開放のままスローシャッターの世界を探りました。こうすることで、奥行きと柔らかさを保ちつつ、“動きそのもの”に画面を支配させることができます。予測不能な結果も含めて、すべてがプロセスの一部。そこがこのスタイルの楽しさでもあります。

モーションブラーの撮影は、「コントロールを手放す」ことを私に求めます。1枚1枚の仕上がりを完全に予測することはできませんが、だからこそ、写真はより感情的で、技術以上の何かを宿す。そして、不完全さこそが写真に“魂”を与えるのだと、改めて気づかされるのです。
FILM SIMULATION:ASTIA
MONOCHROMATIC COLOR:N/A
GRAIN EFFECT:STRONG, LARGE
COLOR CHROME EFFECT:STRONG
COLOR CHROME FX BLUE:STRONG
SMOOTH SKIN EFFECT:OFF
WHITE BALANCE:AUTO/ R 2, B -4
DYNAMIC RANGE:DR100
D RANGE PRIORITY:OFF
TONE CURVE:H -2, S +2
COLOR:+3
SHARPNESS:0
HIGH ISO NR:-4
CLARITY:0
3つのレシピをつなぐもの
これら3つのレシピは、それぞれまったく異なる「ものの見方」を象徴しています。
海がもたらす静けさ。
鏡を通した内省的なまなざし。
そして、動きが生むエネルギー。
それらが組み合わさることで、光・感情・存在感についての“視覚的な対話” が生まれます。
Fujifilmのフィルムシミュレーションを使うことで、私はこれらの表現を“カメラの中で”組み立てる自由を手に入れています。コントラスト、トーン、粒状感といった調整ひとつひとつが物語の一部となり、撮影対象とより深く向き合うきっかけにもなるのです。
最終的に、これらのレシピは単なる色設定でもテクニカルなプロファイルでもありません。質感やトーンを通して“感情を翻訳する”ための手段であり、見慣れた場所を新しい目で見つめ直すためのアプローチなのです。