ASTIA FS RECIPE x Matt Krumins

ASTIA FS RECIPE x Matt Krumins

2026.08.14

熱帯地域では、装備だけではなく、クリエイティブな判断も試されるものです。鬱蒼とした熱帯雨林の奥には、滝が流れ落ち、それが蛇行する小川へと注ぎ込み、やがて広大なビーチへと開ける川へと繋がっています。青空は、1コマの構図を整える間に、墨のように真っ黒になり、やがて色鮮やかな虹へと変わることもあります。この環境を、野生動物たちは、深みのある緑、湿ったような黒、鮮やかな青、そしてオレンジや赤の鮮やかな斑点を身にまとって動きまわっています。その光景は、控えめでありながらも強烈な色彩に満ちていて、何よりも予測不可能なものです。
その幅広い表現を簡単にしたり、全てを単一の見た目に統一することなく、うまく表現できるフィルムシミュレーションを求めていました。

このFSレシピの中核をなすのは、ASTIAです。そのバランスの良さに惹かれて、私が常に愛用してきたフィルムシミュレーションです。ASTIAは派手さを抑えています。ニュートラルな描写と豊かな表現力のバランスが取れており、穏やかなコントラストと自然な色分離を実現しています。ハイライトは滑らかに表現され、トーンは平坦さを感じさせることなく、適切にコントロールされています。熱帯のような環境では、暗く閉ざされた場面から、明るく混沌とした場面へとほんの数秒で状況が変化することがありますが、このような環境では、この柔軟性は単なるオプションではなく不可欠なものとなります。

そこから私たちが撮影していた熱帯モンスーンの気候条件をよりよく反映するよう、ビジュアルをさらに仕上げました。ここでカラークローム・エフェクトとカラークロームブルーをいずれも強に設定した組み合わせが重要な役割を果たしています。豊かで深みのある描写は、まさにこの組み合わせによって生まれているのです。緑は主張しすぎることなく深みを増し、青は空や水の中でその重みを保ち、彩度の高い色も光が強く照り付ける状況下でも色調のまとまりを保ちます。彩度を高めることよりも、色により存在感と深みを与えることが目的です。

次に考慮したのはコントラストでした。ダイナミックレンジをDR400に設定することで、ハイライト領域のディテールを失わないよう配慮しています。熱帯雨林の撮影では、太陽光を受けた葉や水面の反射、木々の隙間からのぞく空など、繊細なハイライト表現が求められます。一度クリップしてしまえば、その瞬間は二度と取り戻せません。DR400はハイライトを守るための有効な手段ですが、これだけでは暗いシーンがやや灰色がかった平坦な描写になってしまうことがあります。そこでハイライトを +1、シャドウを +1.5 追加することで、意図的にコントラストを補っています。シャドウは深みを増し、重厚感を与え、ハイライトはそのインパクトを保ち、ディテールを損なうことなく、より立体感のある描写を実現しています。こうして生まれるのは過度なコントラストではなく、被写体の印象を引き立てるために丁寧に調整されたコントラストです。

また、カラーを+2,シャープネスを+2に設定しました。一見するとこうした設定は過激に思えるかもしれませんが、実際にはその環境に適しています。追加された色彩は、カラークローム・エフェクトと競合することなく調和し、シャープネスが向上したことで、羽毛や鱗、樹皮の質感といった細部が、特に熱帯雨林の樹冠や雲の下でよく見られる、柔らかくフィルターをかけたような光の下で際立つようになります。

私が最も評価しているのは、描写の方向性が限定されすぎていないことです。この作品には、より暗く、深みがあり、どこか映画的な雰囲気が漂っていますが、すべての映像を同じ視覚的な枠に無理やり押し込んでいるわけではありません。野生動物の写真は、やはり自然そのものです。風景写真は、現実味のあるものとして描かれています。この仕上がりは、カメラからそのまま出したような自然な印象でありながら、窮屈さや過剰な定義感を感じさせません。デインツリー熱帯雨林のような場所では、すでに大気が大きな役割を果たしているため、そのバランスが重要となります。ASTIAをベースにしたこのFSレシピは、熱帯雨林が持つ独特のドラマを引き出しくれます。そこに何かを加えるのではなく、もともと存在する魅力を丁寧に際立たせているのです。